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予測不能だからこそ、体で学ぶ災害対策を。
森ノ宮医療大学の防災セミナー体験記

 

 
2022年で開学15周年を迎え、2024年度には学科の新設も予定されている医療系総合大学の森ノ宮医療大学。大阪湾の人工島、南港地域にキャンパスを置く同大学では、災害時に学生を守るための防災備蓄や、地域と連携した災害対策に注力をしており、コロナ禍で実施できていなかった防災キャンパスツアーの代替として、今回弊社の防災体験セミナーを実施していただきました。
 
防災体験セミナーの実施背景にあった課題やセミナー実施までの流れ、そして今後の災害対策について、同大学の事務局総務課で施設設備を担当する、池田 沙椰菜 様にお話を伺いました。


大阪湾の人工島、南港における森ノ宮医療大学の災害リスクと対策

キャンパスの立地についてお聞かせください。
 
池田 様本学のキャンパスは、大阪湾の人工埋立地である南港地域に建てられています。人工島は木津川の河口に位置しており、本学のエリアは「咲洲」や「コスモスクエア」と呼ばれています。
 
キャンパスの隣にはマンションや商業施設、大型コンベンション施設などがあり、門で隔てることなく、地域に馴染むようなキャンパスであることが特徴です。本学の食堂やカフェは地域の方にもご利用いただいており、学生の実習施設でもある大学附属のクリニックや鍼灸院はどなたでもご利用いただくことができます。そのため、本学の防災の取り組みは、学生や教職員だけでなく、地域の方も想定しています。
 
ー 南港地域が抱える災害リスクについてお聞かせください。
 
池田 様新しくできた人工島であり、他の土地よりも高く盛り上がっているため、海からほど近い場所ではありながら津波のリスクは低くなっています。反面、高い土地であるために地震の際にはとても揺れやすくなっており、人工の地盤ゆえに地震による液状化現象のリスクが高いことも懸念点です。
 
もう1つ大きな問題が他の地域とのアクセス面です。南港地域は他の地域とトンネルや橋でつながっているため、もし災害でトンネルが封鎖され、橋が倒壊してしまうと孤立化してしまいます。そのため、キャンパスの防災備蓄を充実させることはもちろん、近隣との協調性が重要です。
 
ー 近隣とは、防災に関してどのような取り組みをされているのでしょうか。
 
池田 様:コスモスクエア周辺の企業が加盟している「コスモスクエア開発協議会」が主体となり、年に1回、同協議会から支給されている無線機を使用した防災訓練を行っています。例えば、災害によってどこかの企業が危機に陥ったとき、別の企業へ救助を要請したり、備蓄品を提供していただいたりといったケースを想定した訓練内容となっています。
 
孤立化しやすい地域だからこそ、「共助」の意識を持つことが大事だと考えています。


コロナ禍で2年間防災キャンパスツアーを開催できていなかった

ー 学生向けの災害対策については、これまでどのように取り組んできましたか。
 
池田 様これまで年に1回、自衛消防訓練、災害時の避難訓練などを行ってきました。日常的には、施設設備担当が地震の際に什器が落ちてこないように固定するといった対策をしています。その他にも、学内システムを活用した安否確認のテストメール配信や、災害備蓄品の有効期限が切れていないか、Excelによる管理も行っています。
 
また、昨今はBCP(事業継続計画)の重要性が叫ばれていることもあり、本学の防災管理マニュアルをしっかり浸透させていくことや、災害時に教職員が自らの役割をこなせるような取り組みを意識しています。
 
今回の取り組みである防災体験セミナーの実施背景には、どのような課題があったのでしょうか。
 
池田 様本学は2024年に学科が新設されることもあり、今後、学生数が2,000名を超える見込みです。しかし、教職員自体は250名ほどしかおりませんので、単純計算で教職員1人につき約10名を担当することになります。
 
防災管理マニュアルがしっかり浸透しているのか、かつ災害時に落ち着いて教職員が役割をこなせるかという悩みや不安がありました。また、防災の知識だけでなく、防災備蓄品の使用方法や避難方法など、災害時に向けてしっかり体験していることも重要であると考えました。
 
このタイミングで防災体験セミナーを実施された理由をお聞かせください。
 
池田 様:新型コロナウイルスの感染拡大が大きな理由です。コロナ禍以前は防災キャンパスツアーを企画し、避難経路や備蓄品の保管場所の確認をしていたのですが、コロナ禍の影響でこの2年間は実施できていませんでした。
 
防災キャンパスツアーの代わりになる企画を検討していた際に、防災備蓄品を購入させていただいている販売店さんの株式会社ワダ様からのご紹介で、防災体験セミナーを知りました。


汎用的ではなく、地域にあわせたセミナー内容のご提案が高評価

ー 防災体験セミナーの実施にあたって、どのような点に魅力を感じましたか。
 
池田 様どの企業や学校でも使えそうな、汎用的なセミナー内容ではなく、本学の地域が抱える災害リスクを踏まえた内容にしていただけるとのご提案は高評価でした。
 
また、大学に保管されている防災備蓄を使っての防災体験セミナーである点も嬉しいですね。普段から備蓄されているものと同じであれば、より実践的な体験になり、もしもの時に行動に移しやすいのではと考えました。
 
学内からの合意形成に苦労しましたか。
 
池田 様:いえ、特に苦労はしていません。セミナーの内容がしっかりしていたこともあり、すぐに上司からの実施許可を得ることができました。また、費用もかからないとのことでしたので、「まずはやってみよう!」となりました。


災害知識や地域リスクを知り、災害時に行動できる状態を目的に

ー 防災体験セミナー実施までの流れをお聞かせください。
 
池田 様防災体験セミナーの実施まで、かなり余裕のあるスケジュールを組んでいただき、ご依頼から3ヶ月後の開催とさせていただきました。1ヶ月に1回程度のお打ち合わせをさせていただき、資料の内容確認やリハーサルをしていただきました。コロナ禍で2年間も防災キャンパスセミナーができていなかったので、2022年度中に開催できてよかったです。
 
ー 防災体験セミナーで設定された目的をお聞かせください。
 
池田 様防災に関する幅広い知識を身につけること、災害の地域特性を知ること、そして災害時に落ち着いて行動できる状態になることの3つを掲げました。
 
セミナーには、各学科の学科長や事務局各部署の課長、新入職員など合計27名の教職員に参加していただき、1時間のセミナーの中で学んだことをそれぞれ各学科・各部署に持ち帰っていただくことで、学内全体に防災意識を浸透させたいと考えました。
 
防災体験セミナーの内容で工夫されたことはありますか。
 
池田 様:座学が長すぎると疲れてしまうかもと考え、座学の間にグループで取り組む非常食の加熱準備や試食の時間を挟んでいただきました。
 
また、防災備蓄の体験では、学生がまだキャンパスに残っており、暗くなりつつある夕方の時間帯に災害が起きたことを想定してセミナーの内容を組んでいただき、具体的には、以下のような体験をさせていただきました。
 
・暗闇でランタンのスイッチを入れる体験
・簡易トイレの設置体験
・限られた明かりの中での非常食の調理


簡易トイレ、暗闇の調理。災害時を想定した体験コンテンツを評価

ー 防災体験セミナーのご感想をお聞かせください。
 
池田 様防災体験セミナー実施後にアンケートを取らせていただき、全員から「よく理解できた」「理解できた」との回答が得られました。以下、アンケートに記入いただいた教職員からの感想を、一部紹介させていただきます。
 
・座学と体験を同時に行うことで、インプット・アウトプットができ理解が深まった。
・本学周辺のハザードマップを見て被害予測、学内の備蓄場所など再確認は役立つ。
・実際に被災した想定での説明だったため、必要なものや場所の確認が明確になった。
・災害を防ぐことは不可能だが、被害を最小限にすることは対策を行うことで可能になるの
で、事前対策を見直す良い機会になった。
 
ー 防災体験セミナーで最も評価いただいているポイントをお聞かせください。
 
池田 様座学の内容はもちろん、やはり「体験」の部分が高評価でした。実際に電気が供給されなくなったことを想定し、暗闇で災害用ランタンの明かりだけで非常食の説明文を読みながら調理したのは印象に残っています。参加者からも驚きの声があがっていました。
 
災害用トイレは、液体を流すとどんな状態になるのか初めて知りましたし、頭だけでなく、体で災害対策を学ぶことができた点が良かったです。


いつ起こるか分からない災害だからこそ、日頃の意識と準備が大事

ー 今後の災害対策の展望をお聞かせください。
 
池田 様参加者アンケートに「学生を含めた避難訓練や防災セミナーの実施も検討したい」との意見があったとおり、今回の防災体験セミナーをきっかけにコロナ禍で中止が続いてきた防災キャンパスツアーを再開し、そのコンテンツ内容もアップデートしていきたいと考えています。今回の防災体験セミナーで使用させていただいた、防災備蓄の拡充も検討していきたいと思います。また、医療系総合大学の特徴を活かした地域連携や防災対策も注力していきたいポイントです。
 
ー 災害対策への取り組みを検討されている企業、学校法人の方へメッセージをお願いします。
 
池田 様今回の防災体験セミナーで、防災意識の大事さを再認識しました。教職員からのアンケート結果に「新しい防災グッズを知り、備蓄の見直しのきっかけになった。」という声もあったとおり、防災体験セミナーをきっかけに学内での防災意識だけでなく、プライベートや自宅における防災意識も高まったと思います。自宅に防災備蓄がある家庭はまだまだ多くないと思いますので、セミナーで得た知識を職場だけでなくぜひ家庭にも持ち帰ってもらいたいですね。
仕事中や休暇中を問わず、「いつ起こるか分からない」が災害です。だからこそ常日頃から、いかに意識して準備するのかが大事なのではないでしょうか。