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宮城県岩沼市の災害対策への取り組みと今後の展望

 

 
東北における交通の要衝、そして仙台市のベッドタウンに位置する宮城県岩沼市。東日本大震災による被災経験から、災害時を想定した民間企業との連携においては、発災時の実行性と平時からの関係強化が重要という考えのもと、岩沼市内に物流拠点「ジョインテックス東北センター」を持つ弊社とも災害支援協定を締結しています。
 
今回は岩沼市の災害対策への取り組みと今後の展望、震災で大きな被害を受けた市内中学校の生徒に向けて実施した防災体験会について、岩沼市総務部  危機管理課の森 俊幸 様と片倉 晶平 様にお話を伺いました。
 
※インタビュアー:丸山 茜(防災士)
…当サイト運営元であるプラス株式会社ジョインテックスカンパニーにて防災・BCP商材、サービスの企画/推進、専用カタログ「危機対策のキホン」の企画/監修担当


交通の要衝であり、市域の大半が平野である岩沼市が抱える災害リスク

丸山:危機管理課では、どのような業務をされているのでしょうか。
 
森 様何と言っても市民の生命・財産を守ることが最大のミッションで、課の業務の範囲は防災・減災施策に加えて、交通安全の啓発や防犯活動、自衛官の募集業務への支援などとなっています。
 
丸山:岩沼市はどのような特徴がある地域なのでしょうか。
 
森 様東北地方の空の玄関口となる仙台空港や、JRの東北本線と常磐線、国道4号と6号の合流点など、交通の要衝であることが大きな特徴であり、商工業都市として栄えてきました。また、仙台市からも通勤圏内であるため、ベッドタウンとして発展してきた都市でもあります。
 
一方、災害のリスクとしては、特に水害が挙げられます。東北地方で2番目の長さを誇る阿武隈川の河口に位置していることから、阿武隈川の氾濫に伴う洪水、台風や大雨による山間部の土砂災害の恐れがあります。沿岸部は巨大地震による津波の懸念があります。昨年度、県が悪条件下における新たな津波浸水想定を公表したことから、市では津波ハザードマップを作成し、普段から避難の意識を高めていただくよう呼び掛けているところです。
 
丸山:2011年の東日本大震災では、どのような被害があったのでしょうか。
 
森 様高さ10.5mもの大津波により、太平洋に面した東部地域の住宅や農地で大規模な浸水被害を受け、岩沼では180名の尊い命が失われました。東部地域は広い平野であったため、市域の半分近くである48%が浸水しており、これは被災した沿岸市町村で最大の規模です。
 
また、地盤沈下によって市域の約8%が海抜0m以下となり、震災後の排水作業が難航しました。


大震災の教訓と、岩沼市の災害対策の変化とは

丸山:東日本大震災後、災害対策の考え方にどのような変化がありましたか。
 
森 様これまでは、災害が発生してからアクションを起こすという対処療法的な災害対策がメインでした。しかし東日本大震災で大きな被害を受けたことで、事前の対策をより強化していかなければならないことに加え、災害対策を検討するにあたり重要なのは、自治体のみが対策をするのではなく、平時から地域住民や企業・団体との協力体制をしっかり築いておくこと、発災時には連携が図れる体制を構築しておくことが重視されるようになったと思います。
 
岩沼市では、実効性も踏まえ、地域企業と「災害支援協定」を締結しており、プラス株式会社ジョインテックスカンパニー様(以下、ジョインテックス)とも2022年10月に「災害時等における物資供給に関する協定」を結ばせていただきました。
 
丸山:災害対策の具体的な内容についてお伺いできますでしょうか。
 
森 様先ほどもお話したとおり、これまでは対処療法がメインでしたので、災害対策基本法でも備蓄については、発災時に必要となる物資に関する規定がありませんでした。そのため、東日本大震災の教訓を踏まえ、自治体だけでなく、企業・団体等の事業者に対しても、災害リスクの洗い出しから、リスクに備えるための備蓄品の準備、連絡手段の確保、定期的な訓練の実施・見直しを含む、BCP(事業継続計画)の策定を求める方針に変わっていきました。
 
岩沼市では、どんなに災害を想定しても、その想定を超える災害が起きる可能性も考慮し、防災集団移転や町並み整備、避難路の設定など、ハード面の整備も進めてきました。具体的には、津波のリスクが高い地域を「災害危険区域」に指定し、そこに居を構えていた住民の方に新たな場所に転居していただくという取り組みが代表例です。
 
また、ソフト面の取り組みとして発災時に取るべき行動を時系列で見える化しておく「マイ・タイムライン」の作成や「ローリングストック」という備蓄の考え方を啓発したりと、主に「自助」の重要性を伝えてきました。


民間企業との連携においては、発災時の実行性と平時からの関係強化が重要

ジョインテックスとの「災害時等における物資供給に関する協定」締結式の様子

丸山:災害対策における企業との連携強化策について教えてください
 
森 様東日本大震災以前から、民間企業とは災害支援協定を締結するなどして地域の防災力強化を進めていました。ただ、震災当時、協定を結んでいた企業自体が被災してしまい、協定で決められていた取り組みが実施できなくなったという問題も起きてしまいました。
 
そこで現在は災害支援協定が発災時でも実行性があり、かつ平時にも顔の見える関係が構築できる体制を重視しています。
 
丸山:弊社と締結いただいた災害支援協定「発災時等における物資供給に関する協定」について、どのように評価いただいていますか。
 
片倉 様災害時のあらゆるニーズに対応するには、市の備蓄では限度があります。幅広い品目の取扱いがあるジョインテックス様との協定によって、発災時に避難所や市に対して生活支援物資を迅速にご提供いただくことができるという点は大変心強いです。
 
万一、津波で東北センターが被災してしまった場合でも、全国にある他の物流センターとの供給ネットワークにより、数日以内で物資をご提供いただける体制が整っているという点も大変頼もしく感じています。


岩沼市玉浦中学校にて「防災体験会」を実施

岩沼市玉浦中学校での「防災体験会」の様子

丸山:災害支援協定の締結に加え、今回、岩沼市立玉浦中学校にて災害用備蓄スタンド「BISTA」を用いた「防災体験会」を実施させていただきました。今回のお取り組みが実現した経緯についてお伺いできますでしょうか
 
片倉 様ジョインテックス様からご提案いただいたことで実現した今回の取り組みは、発災時だけでなく平時から民間企業と連携したいという岩沼市の考えに合致したものでした。
 
今回の「BISTA」を活用した防災体験会の実施により、生徒への防災教育はもちろん、各ご家庭へ備蓄の意識を浸透させたいという思いがありました。岩沼市でも防災に関する講演などを実施していますが、防災意識がもともと高い層の参加が中心で、市全体としての防災意識向上にまで広げていくことが課題でした。
 
今回の体験会を通じて学んだ「備蓄の重要性」や「共助」の考え方、「分け合う」ことの大切さなどを、生徒がそれぞれのご家庭に持ち帰ってくれればと考えています。

丸山:災害用備蓄スタンド「BISTA」に対する評価をお伺いできますでしょうか。
 
片倉 様岩沼市の備蓄品は、普段は人目につかない防災倉庫に保管する一般的なスタイルです。「BISTA」の良いところは、シンプルな見た目であるため日常生活に馴染むことに加えて、発生時には教職員がすぐに開けて初動対応ができることなどが挙げられると思います。
 
玉浦中学校では「BISTA」を職員室の前に設置すると聞いていますので、普段から生徒たちの目にも留まり、災害を特別視せずに日常の中で防災を意識してもらうことに繋がることを期待しています。


災害は想定を上回ることがあるからこそ、平時から頼れる相手との関係強化が重要

丸山:今後の防災・減災対策の展望をお聞かせください。
 
森 様いつ起こるか分からず、また私たちの想定を超えてくる災害に対して私たちができることは、とにかく地道な取り組みを重ねていくことです。公助の備えを充実させることはもちろん、災害を自分ごととして捉え、備蓄や早めの避難など「自助」の意識を持っていただくこと、地域コミュニティを強化し「共助」を高めていただくことなどの重要性を広報活動を通じて広く伝え続けていきたいと思います。併せて民間企業との連携により、岩沼市全体の防災力強化にも積極的に取り組んでいきます。
 
丸山:企業・自治体の防災担当の方へメッセージをお願いします。
 
森 様どんなに備えていても、災害は想定を上回ってくることがあります。だからこそ、まず自分たちの限界を理解し、その限界を上回った問題が起きたときに、しっかり頼れる相手を決めておくべきでしょう。ジョインテックス様と岩沼市のように、頼れる相手とは平時から連携し、発災時に顔が思い浮かぶような関係を築いておくことが重要だと思います。

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<取材にご協力いただいたお客様>
岩沼市
総務部  危機管理課
副参事兼課長補佐(危機対策担当)
防災士・総務省災害マネジメント総括支援員(GADM)
森 俊幸 様
 
総務部 危機管理課
主事
片倉 晶平 様
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