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「ホームソリューション」から「ジャパンソリューション」へ
東日本大震災の被災経験を活かした
商品開発と強固なメーカーマインドとは

 

 
 
1958年の創業より生活者の不満や不便さを解消するため、生活家電や日用品、食料品などさまざまな商品を開発、販売するアイリスオーヤマ株式会社。同社が日本の社会課題を解決する商品やサービスを開発・提案したいとの思いから「ジャパンソリューション」を掲げはじめた背景には、東日本大震災の実体験がありました。
 
東北は宮城県仙台市に本社を置く同社が商品開発にかける想いや防災用品に力を入れるようになったきっかけ、そして今後の展望について、BtoC事業グループ 営業本部 通販営業部 東京営業所の戸塚 航太 様と対談させていただきました。 
 
※インタビュアー:丸山 茜(防災士)
…当サイト運営元であるプラス株式会社ジョインテックスカンパニーにて防災・BCP商材、サービスの企画/推進、専用カタログ「危機対策のキホン」の企画/監修担当


生活者の不満や不便さを解消する「ソリューション商品」をスピーディーに

丸山:生活家電から日用品、食料品まで、幅広い商品を取り扱っているイメージがありますが、アイリスオーヤマ社ではどのような商品展開をされているのでしょうか。
 
戸塚 様:2023年9月現在、弊社では約2万5,000もの商品を展開しています。商品開発にあたって大事にしている考えのひとつとして、「ユーザーイン発想」という言葉があります。「生活者の声を聞く」だけではなく、開発者が自らの生活のなかで感じた不満や不便さから発想して商品開発をしよう、という意味です。
 
そのため、アイリスオーヤマでは生活者の不満や不便さを解消する「ソリューション商品」として、主力の生活家電や日用品、ペット用品、アパレルなど、幅広い商品を企画、開発しています。
 
また、スピーディに商品化されることも弊社の特徴です。弊社では毎週月曜日に「新商品開発会議」が開かれています。そこには社長以下、商品開発に関わるさまざまな部門の社員が参加しているため、その場で開発するか否かの意思決定がされます。その情報は一斉に関連部門へ共有されるため、スピーディーに開発着手することができるのです。
 
丸山:アイリスオーヤマ社は、1989年に本社を大阪から東北の仙台に移転されましたが、どのような背景があったのでしょうか。
 
戸塚 様:本社の移転は、オイルショックがきっかけでした。もともと宮城県大河原町に工場を設立しており、そこで養殖用ブイや育苗箱、プランターといったプラスチック加工製品を事業の柱としていた当時の弊社にとって、原油価格の高騰は死活問題であり、倒産の危機に追い込まれた結果、設備の古い大阪の本社を閉じることになりました。
 
移転の決め手となったのは、仙台では漁業や農業が盛んであったため、より消費地に近い場所で製造することで、優位性が保てると考えたからです。それ以来、仙台市にビジネスの拠点を置きながら成長を続けています。


発災時の自助と共助。本社工場の機能回復と、地域社会への物資提供

震災直後のアイリスオーヤマ社事務所の様子

丸山:2011年3月11日、東北を中心に東日本大震災が起きました。震災当時、アイリスオーヤマ社ではどのような対応を取られたのでしょうか。
 
戸塚 様:震災によって、本社や本部機能を有する角田工場や大河原工場に大きな被害がありました。特に角田工場では、電気、通信、水道といったインフラが停止し、天井は剥がれ落ち、多数の荷物が崩れてしまっている状況でした。当時の社長(現会長)は、まずは本社工場の機能回復に努めることを決定し、一刻も早く人々が求めている物資を届けられる体制を社員一丸となって目指すことになったのです。

ホームセンター「ダイシン」での灯油の無料配布の様子

戸塚 様:宮城県内にはアイリスオーヤマの製品を多く取り扱うグループ会社の「ダイシン」というホームセンターを展開しているのですが、震災直後に気仙沼店では当時の店長の自主判断で灯油を1人10リットルまで無料で配布しました。また、各店舗の店内の商品については、ノートに氏名や住所、電話番号を書いていただき、「お支払いは落ち着いた頃で大丈夫です」とその場ではお会計せずにお渡しさせていただきました。
 
生活用品のメーカーとして常日頃から「生活者視点」を大切にしているため、このような状況になったときでも、生活者の皆さんに必要なものを必要なときに届けるために自分たちは何ができるのかを現場の社員たちが自身で考え、このような行動に繋がったと考えています。
 
丸山:防災において、地域社会とはどのような取り組みをされていますか。
 
戸塚 様:本社がある東北をはじめ、弊社は全国に約70の営業拠点を置いています。企業活動は地域の方々のご理解があってこそ。そのため弊社では、地域社会との連携が重要だと考え、弊社の工場が置かれている地域を中心に各種防災協定を締結させていただいており、非常時における物資提供によって貢献していきたいと考えています。現在、防災協定を締結している地方自治体はグループ会社で行ったものを含め20以上です。


家庭の課題解決から、日本全体の課題解決へ

丸山:東日本大震災の影響で、アイリスオーヤマ社の商品開発にはどのような変化がありましたか。
 
戸塚 様:もともと弊社の商品は、生活者の不満や不便さを解決する「ホームソリューション」の発想から生まれたケースがほとんどでした。たとえば、収納棚にしまわれているはずのセーターが見つからず、夫婦喧嘩になってしまった現会長の実体験から生まれた「クリア収納ケース」がその一例です。
 
この「ホームソリューション」が商品開発の根底にありつつ、東日本大震災以降は、私たちは社会貢献のために何ができるのか、日本の社会課題解決のためにどんな商品が必要かと、より広い視点で「ジャパンソリューション」を考えるようになり、事業の幅を広げていくことになりました。
 
丸山:ジャパンソリューションの考え方によって、どのような事業が展開されたのでしょうか。
 
戸塚 様:東日本大震災後、各地で原発の稼働が見直されるようになり、日本全国で電力不足が問題になりました。当時の社長(現会長)は、節電のためにLED照明へ切り替える企業や家庭が急増すると予想し、今後の需要を見越して従来の蛍光灯と互換性のある直管型ランプを開発させていました。そして、震災後は社長(現会長)自ら工場のある中国・大連に赴き、生産していたLED照明の生産量を従来の3倍まで引き上げるよう、生産現場へ指示を出しました。
 
こうした努力の結果、東日本大震災からおよそ2か月後には、前年比の3〜5倍に達したLED照明の受注量に応えられる生産体制を整えることに成功しました。


震災をきっかけに参入した精米事業から、防災用品、飲料水事業へ

丸山:東日本大震災をきっかけに、アイリスオーヤマ社の事業にどのような変化がありましたか。
 
戸塚 様:弊社は東日本大震災から2年後の2013年、東北の農業復興を目的に生鮮米やパックごはんの生産・販売を手掛ける精米事業に参入しました。宮城県下最大の農業生産法人との共同出資で新会社を立ち上げ、日本最大級の精米工場を竣工するなど、東北のおいしいお米を日本全国、世界へ届け、農業復興の一助になればというジャパンソリューションの考えから事業が始まっているのです。
 
長期保存ができるパックごはんから始まり、現在ではレトルト食品や防災食などを開発、販売しています。そして2021年には、「大規模な断水時の飲料水確保」という発災時の課題を解決するため、新たに飲料水事業に参入しています。
 
採水をしている静岡県の富士小山工場は都内から1時間半の好立地なので、緊急時にはすぐに関東圏へ輸送することができます。また、国内の自社工場に飲料水の在庫を置いていることも、いざという時のための備えです。

災害時に役立つ防災用品をセットにした防災リュック

丸山:アイリスオーヤマ社では、食料品以外にどのような防災用品を展開しているのでしょうか。
 
戸塚 様:防災用品のなかでも主力商品として展開しているのが、災害時に役立つ用品をセットにした防災リュック(防災セット)です。実際に被災経験のある社員の声を反映し、災害時の最初の3日間を生き延びるために必要な物資を詰め込んでいます。リュックには雨が降っても安心な素材とファスナーを使用しており、中には非常食や飲料水などが入っています。
 
また、空気を入れて膨らませるだけで使用できる「コンパクトエアベッド」をセットに入れていることが他社商品との差別化ポイントです。緊急時の避難場所は近隣の体育館になることが多いのですが、寝るには床が硬すぎて、配られる毛布では充分でないのです。その他にも、エチケット用品が充実した女性向けの防災リュックも展開しています。


いつ災害が起きるか分からないからこそ、いつでも対応できるように

丸山:アイリスオーヤマ社では今後、どのような商品を展開されていくのでしょうか。
 
戸塚 様:日本全体の課題を解決する「ジャパンソリューション」を念頭に、社員自らの生活で感じた不満や不便さを解決する商品を、よりスピーディに展開していきたいと考えています。防災用品については現在、消費者向け(toC)の商品展開が中心となっていますので、今後は企業向け(toB)の商品も手掛けていきたいですね。
 
丸山:企業の防災担当者の方へ、メッセージをお願いします。
 
戸塚 様絶対に大事なのは、震災の記憶を忘れてはいけない、ということです。震災からまだ数年のうちは、多くの企業が防災に目を向けていたと思いますが、危機感はどうしても時間が経つにつれ、薄れていってしまうものです。
 
いつ災害が起こるか分からないからこそ、いつ災害が起きても対応できるように、防災対策について検討いただき、十分な備えをしていただきたいと思います。

弊社が運営する企業向けオフィス用品通販サービス「smartoffice(スマートオフィス)」では、本日ご紹介いただいた「防災リュック」シリーズを含めた「アイリスオーヤマの防災用品特集」ページを開設しております。ぜひこちらのページもご覧いただき、皆様の防災・BCP対策にお役立てください。